傷の湿潤治療(うるおい治療)
「傷ができたら、消毒して乾かしましょう」このフレーズ、誰でも一度は耳にしたり、口にしたことがあるのではないでしょうか。私自身、小さい頃に転んでひざをすりむけば、親や保健の先生に、赤(いわゆる『赤チン』)や茶色(いわゆる『ヨーチン』)や透明(たぶんオキシドールかマキロン®)の消毒薬を、痛いのを我慢してポンポンと塗ってもらい、時にはガーゼを貼って過ごしました。数日後、かさぶたができると「治った!」と一安心。
こども時代の、セピア色を帯びた懐かしい思い出の一コマ・・・
ところが、この方法、実は完全なる間違いなのです。
傷ができた時の正解。
それは「傷を消毒しない、乾燥させない」
ビックリしませんか?これを初めて耳にした時、私はビックリしました。傷を消毒せず、乾燥させずに治す方法を「湿潤治療(うるおい治療)」と言います。
日本では、1996年に夏井睦先生が創傷被覆材を使った外傷治療を始め、2001年にwebサイト 「新しい創傷治療」(http://www.wound-treatment.jp/)を開設されたことで徐々に世の中に広まりました。
湿潤治療を理解するためには、まず傷の治り方を知っておく必要があります。
「傷」とは、本来体の表面を覆っているはずの皮膚の一部が、ある程度の深さで欠けた状態です。この、欠けた部分を再生するために、傷の周囲の皮膚や、傷の底面に残った毛包から皮膚を形成する細胞が増殖し、傷の部分に移動していきます。
まず、なぜ「消毒してはいけない」のか。
消毒薬の目的は、傷に付着する細菌(バイキン)を殺すことです。どうやって殺すかというと、細菌の細胞膜と細胞質を破壊することで殺します。
ところがこの方法では、細菌の細胞と皮膚の細胞を区別することはできません。どちらも消毒薬の攻撃対象となってしまいます。当然、消毒薬は傷に露出した皮膚の細胞を傷つけます。だから、傷を消毒すると痛いんですね。そして傷の表面の皮膚細胞が壊されることにより、その再生を遅らせてしまいます。
消毒がいけない理由、お分かりいただけたでしょうか?
次に、なぜ「乾燥させない」ことが大切なのか。
「細胞」は、生き物です。生き物には当然「水分」が必要です。カラカラ、カピカピに乾いた傷では、周囲の皮膚細胞は増殖することも、傷の表面を覆うべく移動することも叶いません。傷が治るためには「ほどよく潤っていること」が非常に大切なのです。
特にやけどやすり傷の治療において、湿潤療法の威力は圧倒的です。
傷は負わないに越したことはありませんが、不運にも「やってしまった」時には、ぜひ湿潤療法に精通した医師の診察を受けることをおすすめします。