多汗症
汗は誰でもかくものですが、汗の量が特に多く、日常生活において支障をきたす状態を「多汗症」と呼びます。
多汗症は、汗の量で診断されるわけではなく、汗が多くて困っているか、自覚症状があるか、という患者さんの主観で多汗症と判断されます。人により症状の強い場所は異なり、ワキや手のひら、足裏など局所に汗が出る方、全身に汗をかく方など様々です。
多汗症の方は普段から汗の量が多い傾向にありますが、緊張した時には特に汗の量が増えます。緊張することで交感神経の働きが強くなり、その影響で汗が出るのです。
緊張していない時でも、交感神経が活発になれば汗が出ます。朝、目覚めた途端に多汗症症状が出る方もいらっしゃいます。多汗症の方が必ずしも人より緊張しやすかったり神経質だったりする訳ではありません。
汗を作る腺にはエクリン腺とアポクリン腺の2種類があります。
多汗症の原因となるエクリン腺は全身に存在していて、においの無いさらさらした汗を分泌します。多汗症はエクリン腺からの汗が多い状態です。
エクリン腺は皮膚の非常に浅い部分に分布しており、手術でエクリン腺を完全に取り出すことは非常に困難です。そのため、手術はわきが(主にアポクリン腺が原因)には有効ですが、多汗症は手術を受けたけれどあまり良くならなかった、という方も多いのです。
汗をかく部位による多汗症の分類
わき多汗症
寒い季節でもわきに汗が多く、汗がしたたることもあります。洋服に汗ジミができ、着る洋服に悩む方も多くみられます。わき多汗症とわきがは別の疾患ですが、わき多汗症の治療をすると、わきがの症状も軽くなる方が多いようです。
手掌多汗症
てのひらに汗が多く、特に緊張すると症状が強くなります。手掌多汗症は人と握手が出来ない、ノートや書類が濡れる、ハンカチが手放せないなど、悩みが深刻になることがあります。
足蹠多汗症
足蹠多汗症は足裏に汗が多く、サンダルなどが滑って履けない、靴を脱いで歩くと足跡がつくのが気になるなどの悩みがあります。
また、足蹠多汗症の方は、足の角質がふやけて二次感染を起こし、足の臭いが強い傾向があります(足臭汗症)。多汗症の治療をすると足の臭いも軽くなります。
汗が多くなる状況による多汗症の分類
緊張性多汗症
緊張すると汗の量が増えます。ほとんどの多汗症の方は緊張性多汗症にあてはまります。
味覚性発汗
誰でも酸味、辛味の強いものを食べると多少汗が出ますが、味覚刺激による発汗量が特に多い状態が味覚性多汗症です。
多汗症の保険治療
1. 外用薬
2020年以降、重症多汗症に対して保険診療で処方できる外用剤が登場し、治療の幅が広がりました。
2024年1月現在、腋窩多汗症に対しては2種類(エクロックゲル、ラピフォートワイプ)、手掌多汗症に対しては1種類(アポハイドローション)の外用剤が存在します。まれに、外用剤による皮膚炎が生じることがあります。
2. 内服薬
多汗症の症状は、神経から汗腺にアセチルコリンという伝達物質が大量に放出されて悪化します。アセチルコリンの放出を抑えれば汗が減少し、多汗症の症状が緩和されます。
アセチルコリンを抑える抗コリン剤のプロ・バンサインが多汗症治療の認可を受けています。口渇、便秘、排尿障害などの副作用が現れることがあるので、使い方は医師によく相談してください。
また、漢方薬にも多汗症に効果的なものがあります。患者さんの体質に合えば、大きな効果を発揮する場合もありますので、興味のある方はご相談ください。
多汗症の自費治療
1. ボトックス治療
ボトックス治療の効果
多汗症ボトックス治療は、わきの汗を注射で抑える治療です。「汗が気になるけど手術には抵抗がある」という方には最適です。
ボトックスが効いている間は、運動や緊張、高温など汗が出やすい状況下でも汗がピタッと抑えられますから、汗のことを気にする必要がなくなります。汗で困っている方にとっては生活が変わる程の大きな変化です。汗を気にして洋服を選ぶ必要もなくなります。効果は半年程度持続します。
ワキの多汗症をボトックスで治療すると、気になるニオイも改善します。
外用剤や制汗剤のように塗り直しの手間が無く、またかぶれる心配が無いのもボトックス治療のメリットです。
ボトックス治療の原理
神経から汗腺に向けて神経伝達物質(アセチルコリン)が放出されると、汗腺が刺激を受けて汗が出ます。緊張したり運動したり辛い物を食べるなどして交感神経の働きが活発になると、アセチルコリンの放出が増えて汗が増えます。
ボトックスはアセチルコリンの放出を抑える作用があり、ボトックスを注射した周辺の汗腺から汗が出なくなるため、多汗症の症状が改善されます。
2. 医療用制汗剤パースピレックス(塩化アルミニウム製剤)
他のデオドラント剤と比べたPerspirexの技術革新とは...
Perspirexは制汗剤であり、市販のデオドラント剤やほとんどの制汗剤とは作用が異なります。 ご存じのとおり、汗は完全に無臭です。 時に私たちが感じる臭いは、皮膚表面に存在する細菌が汗の成分を分解することによって生じます。 デオドラント剤は汗を止めるものではなく、そのほとんどは臭いを隠すだけの香料を含有し、皮膚の常在菌が発する臭いを一時的に中和する作用を有します。 制汗剤は汗腺の開口部に一時的な栓を形成することで汗腺での汗の産生を減少または中断させます。この栓は数日後に自然に消退しますが、効果は長く続きます。
Perspirexの作用機序
- Perspirexはアルコールベースの塩化および乳酸アルミニウム溶液であるため、非常に効果的に作用します。
- 主成分である塩化アルミニウムは汗腺内の水と反応し、
- 腺内深部に角栓を形成します。この栓が汗腺を密閉し、汗の産生を一時的に中断させます。 しかし、角栓は永続的な栓ではありません。
- 皮膚表面の死んだ細胞の剥離に伴って、角栓は排出され、汗腺は再活性化します。
この過程は2~7日周期で生じるため、Perspirexの使用頻度は週に2~3回のみとなります。
主要成分およびその作用
Perspirexはエタノール、塩化アルミニウム(主成分)、乳酸アルミニウムおよびその他の化粧品成分を含有します。 本品の効果における各成分の役割は下記のとおりです。
- エタノール
水を含まないエタノール製剤です。このため、形成された角栓を汗腺内の「より深部」まで運び、維持することができます。市販されている他の制汗剤のほとんどは水を含有しており、そのために塩化アルミニウムと水の反応が誘発されて塩酸が生成され、効果が低減します。 - 塩化アルミニウム
汗に含まれる水と反応して死亡した角化細胞と複合体を形成し、汗腺の「栓」となって汗腺を一時的に塞ぎ、汗の産生を中断させます。 - 乳酸アルミニウム
刺激を予防し、敏感な皮膚領域の不快感を最小限に抑え、制汗作用を高める緩衝剤として作用します。
推奨される本品の使用方法
- 夜間は汗腺の活動が低下するため、夜の就寝前にPerspirexを塗布します。望まれる効果が得られるまで(通常1週間以内)Perspirexを毎晩使用します。 敏感肌の場合は、1日おきに2週間塗布します。
- 完全に乾燥した損傷のない皮膚に使用し、使用後はPerspirex が完全に乾いてから衣類を着用します。必要な場合は、Perspirexを使用する前に扇風機またはヘアードライアーで皮膚を乾かします。
- 翌朝、石鹸と水で洗い流します。塗り直しはしないでください。
- 週2~3回、または必要な頻度でPerspirexを使用し、汗と臭いのコントロールを維持します。
- 必ず、完全に乾燥した損傷のない皮膚に使用してください。
- 脱毛後48時間は使用しないでください。