今回は、やけどの応急処置の、実践編です。
ただ、やけどと言っても、どうやってやけどしたのか、どこにやけどしたのか、やけどしたのは大人なのか、こどもなのか、持病はあるのか、ないのか、等々。人により状況は千差万別です。
なので、ここでは大多数を占めるであろう「救急車呼ぶほどの大やけどではないけれど、結構痛くて困る。水ぶくれになるかどうか微妙もしくはやけど直後から小さい水ぶくれができている。」という方を念頭においてお話ししようと思います。
ガッツリ広範囲のやけどや、直後から巨大な水ぶくれができている場合は、頑張りすぎずに受診するのがおススメです。
自宅で行うやけどの応急処置で困ることがあるとすれば、まずは次の二つではないでしょうか。
ひとつは、痛み。もうひとつは、水ぶくれ。
やけど当日は、痛いもの
それなりにしっかりやけどした時の直後の痛みは、はっきり言って激烈です。私も経験がありますが、なかなかつらい。たとえ小さいやけどでも、痛みがつらすぎて、夜間救急病院に駆け込みたくなる心情も理解できます。
しかし残念ながら救急病院へ行っても、何時間も待たされて、受けられる治療は消毒して軟膏ぬりぬりしてガーゼ当ててハイ終了、処方は痛み止めと抗生剤1日分、なんていうのが関の山かもしれません。
実のところ、この激しい痛みは当日限定であることがほとんどです。病院へ行くよりは、ゆったりできるご自宅で安静にして、冷やしたほうが楽なら、氷や保冷剤や濡れタオルをこまめに交換しながら冷やし続けているほうが、よほどご本人にとってはストレスが少ないように思います。
また、一般的にやけどの痛みは、表面を「空気を通さないもの」で覆うと軽快することが多いです。
比較的広い範囲のやけどであれば、食品用ラップ(ワセリンを塗っておくのもgood)で覆うのが手軽ですし、手指など小範囲のときは、キズパワーパッドなどのハイドロコロイド保護剤で覆うと自由がきいてよいかもしれません。
冷やした方が楽なら、保護した上から冷やしても良いでしょう。
繰り返しになりますが、やけどをした当日の痛みは激烈でも、翌日には軽快することがほとんどです。できるだけのことをして、待つ、というのも選択肢に入れてみてください。
さて、やけどの経過で、患者さんが困ることのもうひとつ、水ぶくれ。
水ぶくれのトリセツ
インターネットで調べてみても「やけどの水ぶくれは、つぶしてはいけない」と書いてあるかと思えば「やけどの水ぶくれは、つぶさないといけない」とも、書いてあったり。だから、どっちなんだよと。困りますよね。
正直なところ、医者の間でも、やけどの水ぶくれの取り扱いについては意見が様々です。
ちなみに、湿潤治療の夏井睦先生のHPには、次のような記載があります。
水疱は直径2センチより大きかったら全て潰し,水疱膜は可及的に切除する。残した水疱膜の下の水疱液が細菌の培地となり,創感染を起こすことが多いからだ。
なんだか怖そうな字面ですが、書かれていることは極めて明快。私も基本、この方針に賛成です。せっかくなので、もう少しだけ一般のかた向けに噛み砕いて説明してみましょう。
小さな水ぶくれのとき
まず、直径2センチ以下で、それほどぷっくりしていない、薄くて小さな水ぶくれのとき。これは、うまくするとそのまま吸収されるかもしれません。ワセリン+ラップで保護でもいいのですが、どうせ範囲が小さいのなら、キズパワーパッドなどのハイドロコロイド剤をやけどの範囲より一回り大きく貼り、特に痛みやかゆみなどの異常がなければそのまま放置します。
そして、5日目くらいにこわごわハイドロコロイドを剥がしてみると…水ぶくれはしぼんでいるはずです。ハイドロコロイドをはがした拍子に、水ぶくれの皮もくっついて持っていかれてしまうかもしれませんが、よく見ると、薄い皮膚も張っているのではないでしょうか?試しに水などかけてみて、全然しみないようなら、やけどの傷はふさがっています。もし、一部ひりひりするようなら、軽く洗ってもう一度ハイドロコロイドを貼りましょう。様子を見ながら、ハイドロコロイドの交換を繰り返しているうちに、たいてい傷はふさがります。
ただし、途中で痛みやかゆみなど、不快な症状が出現し、「コレって大丈夫なの?」と、不安を抱いた時には、たとえスタートが小さいやけどであってもやはり湿潤治療をしている医師に、一度相談してください。
そこそこ大きい水ぶくれができたとき
2センチを超える、ぷっくりした水ぶくれができたとき。水ぶくれのところだけがやけどしている、というのはむしろ稀です。やけどはそれを超える面積に存在し、その一部が「ぷっくり」としていることがほとんどです。
このような場合、「ぷっくり」な部分だけにハイドロコロイドのような、粘着性のある保護剤を貼ると、剥がすときに一緒に水ぶくれの膜がずるずるずるっと取れてきて、一見、やけどがひどくなったような見た目になります。
なので、保護に使うのは、粘着性の無いもの、すなわち食品用ラップや、湿潤治療用のくっつかないシート(プラスモイストやモイスキンパッド)が適しています。
食品用ラップの場合は吸収性が全くないので、水ぶくれがつぶれていない時も、1日に数回以上のこまめな交換が必要です。でないと、あせもなどの湿疹ができやすくなります。また、水ぶくれが破れると一気に出ててくる水分が増え、ラップの周囲に漏れ出しますから、タオルや紙おむつなど、吸収するもので一回り大きく保護する必要があります。
プラスモイストやモイスキンパッドは吸収性があるので、たとえ水ぶくれが破れても液体を吸ってくれますが、その力にも限界はあります。最低限、1日1回の交換は必須だと考えてください。
やけどの状態によっては、どんなに一生懸命処置していても、何らかのトラブルが生じてくることはあり得ます。困ったときには病院を頼ることも大事です。やけどを湿潤治療で治療している医師のリストを参考に、受診先を探してみてください。
もうひとつ、アドバイスするなら
やけどとは、熱で皮膚が傷害され、バリア機能が破綻した状態です。皮膚は本来、外界と体内を隔て、体の構造物をとどめおく役割をはたすものですが、治る前のやけどの創面からは、たんぱく質の豊富な水分が漏れ出てしまいます。
すなわち、脱水になりやすい。お子さんや高齢者のやけど、広範囲のやけどでは、水分をしっかりとって頂くのが大事です。
また、壊れた皮膚を再構築するためには、栄養が必要です。普段以上に意識して、皮膚の構成成分となる動物性たんぱく質や脂質を摂ることが、速やかな治癒の助けになります。
クリニックを受診したやけどの患者さんにその話をすると「そういえば、やたらお腹がすきます。」とおっしゃることが時々あります。
そんな時は「○○さんの体が、頑張って傷を治している証拠なので、しっかり栄養を摂ってあげてくださいね。」とお願いしています。
体は、食べたものからできています。やけどという緊急事態にスクランブル態勢の体を、しっかり応援してあげましょう。体はきっと、それに応えてくれます。