前回記事で
『キズパワーパッド™(などのハイドロコロイド素材)で保護するのが湿潤治療』という根強い誤解がある
と書きました。

実際、クリニックを受診してくださる患者さんでそう信じていらした方に、いえいえそうではないのですよ、と説明したところ
「そう言われても、他に湿潤状態を保てる保護材というものがイメージできません。」
と、当惑されることもしばしばです。
その様な反応を目にするたびに『なるほど、一般的にはそういうものなのね』と、形成外科医である自分とのギャップを感じます。

形成外科医は創傷治療の専門家なので、私の頭の中には、キズの保護材として使われるものの多様なリストが収納されているのです。

色々なタイプのキズ保護剤

保護材料には
①キズをガッツリ乾燥させちゃうもの(←例えばガーゼ)
②ガッツリ乾燥まではいかないけれど、吸収力がかなり高いもの
③吸収力がそこそこあるもの
④吸収力が弱いもの(←例えばハイドロコロイド)
⑤全然吸収しないもの(←例えばフィルム系 ラップ含)

等々、吸収力ひとつを取ってみても色々な特長があります。
他にも、肌に直接くっついてくれるとかくれないとか、表面がつるつるしているとかザラザラしているとか、そして値段が高いとか安いとか。

しかし、医療従事者でも何でもない一般の方々の目に留まるものと言ったら

①ガーゼ(めっちゃ乾燥する)&そこそこ安い
②カットバン(ちょっと吸収する)&安い
③キズパワーパッド(あんまり吸収しない)&高い

の3択くらいなものですよね。

この状態で『浸出多めのキズではハイドロコロイドだと吸収力不足でうんぬんかんぬん』とうんちくを垂れられても
「じゃあどうしろと」
途方に暮れるに決まっています。

ここでは、私が自院での治療において実際に使用している、ハイドロコロイド素材以外の保護剤をご紹介いたします。

プラスモイスト®

プラスモイストは、湿潤治療で有名な、夏井睦先生が開発された材料です。キズに接する側が「独立セル構造」による“浸出液コントロール機能”を有しており、過剰な浸出液をドレナージしてくれます。滲出の少ないキズから多いキズまで幅広く利用できて便利です。

ばんそうこうタイプも販売されています。

ズイコウパッド

創接触面が「独立セル構造」になっているところはプラスモイストと同様ですが、吸収体がより分厚いため、滲出の多いキズの保護に適しています。当院では、面積の広いヤケドや、切開排膿処置を行ったキズで滲出の多い場合の保護剤として選択しています。

モイスキンパッド

褥瘡の治療で高名な鳥谷部俊一先生が開発された材料です。療養型の医療機関などでもしばしば採用されています。褥瘡用に開発されただけあり、吸収力に優れています。表面がすべすべしているのも特徴のひとつです。

本当は他にもいろいろあるけれど…

大学病院などの大きい病院で勤務していたときは、これらに加えてさらに多種多様な創傷被覆材を使っていました。もちろんその使い分けも承知してはいる、のですが….
正直言ってどれもこれも高い。

保険が適用されるとは言っても、高い材料を使えばそれだけ医療費が増えるわけで、塵も積もればという言葉の通り、抑えられるところは抑えたい。
ですから、いくらモノが良くても、よほど「これでないと」という状況でもなければ使いたいとは思えないのです、私には。


何はともあれ、一般の皆様が日々の生活で、キズの保護について悩む場面はほとんどないと思います。
それでも、この記事を読んで

「世の中にはガーゼとキズパワーパッドとカットバン以外にもキズを保護するものはいろいろあるらしい。」

ということだけでも知っておいて頂ければ、何かあった時の役には立つかもしれません。