3月も半ばのこの時期、わたしのクリニックには、ピアスの孔開けを希望して受診する患者さんが数多くいらっしゃいます。
新しい生活が始まる前に、心機一転!と景気づけに開けたくなるその気持ち、わかる気がします。

特に多いのが「18歳」
そうです、大学生活スタートに合わせてのピアスデビューを目論む若者。オバちゃん先生は、そういうの決して嫌いじゃないです。むしろ微笑ましいなあとすら思う。なぜならオバちゃんだから(笑)

ただ、この時期のピアスの孔開け、実は注意が必要、って、気が付いているかしら?

大学入学につきものの、アレ

入学早々、多くの大学で実施されるのが『健康診断』。そこで実施される検査のひとつが『胸部X線写真の撮影』です。この検査は、結核を早期に検出することで、学内における集団感染を予防することを目的の一つとして行われます。
この、X線検査の際に必ずと言っていいほど出される指示に
「金属やプラスチックのついた衣類や下着、およびアクセサリー類は外してください。」
というものがあります。X線透過性の低い素材が影になると、正確な所見を得られなくなるからです。

孔あけ用のファーストピアスは、その場でパパっと外してまたつける、ということが基本的にできない構造になっています。しかも、ファーストピアスを入れて間もない時期は、短時間外しただけでもあっという間に孔が狭くなります。開けたてホヤホヤの穴は、ただの「傷」。傷はふさぐべし!と働くのが健康な身体の仕組みである以上、これは仕方のないことです。

そういうわけで、わたしのクリニックでピアスの孔あけ希望の方に記入していただくチェックリストにも、写真のような項目があります。

実際のところ、耳たぶは胸部X線写真の撮影範囲外なので、ピアスをしていようとしていまいと関係ないはずです。でも、学生の健診のように決まった時間内に大量の被験者を捌かねばならない現場では「このアクセサリーは良くてこれはダメ」などの個別対応をする余裕が、ぶっちゃけあんまりないんじゃないかと想像します。X線検査ではないものの、過去に学生さんの健診バイトをしたことのある医師として、経験に基づく感想を言わせていただくと「流れるように健診が進んでくれないとマジ困る」というのが本音です。

もちろん、見落としてはいけないような所見をすくい上げるのは、健診の大事な役割ですし、それで流れが止まるのは仕方のないことです。でも、ピアスは知らずにかかっている病気とは違います。開けるタイミングは、ある程度自分で選べるはず。

もしも、健診を控えているけれど開けたい、というのなら、ご自身で大学などに問い合わせていただくようお願いしています。「X線検査で、ピアスしたままでも大丈夫ですか?」って。

でも、そこまでして健診前に開ける人はあまりいらっしゃらないようですし、私はそれでもいいと思っています。まあ、開けちゃったほうが、クリニックの収入にはなるんですけどね。そこは医者としてのプライドが、どうにも許す気になってくれないのでね。

いや、もう開けちゃったんだけど!というひとのために

ピアス穴を開ける前にこの記事を目にして、それでも健診前に開けに行こうという剛の者は少ないと思いますが、まさに健診で、入れたてほやほやのピアスを「外しなさい」と指示され、外して健診終わったところで「あれ?入らない!?」と困っているひとが、日本のどこかにはいるかもしれません。

そんな、にっちもさっちもいかず途方に暮れているひとが、まずやっちゃいそうなのが
『外したファーストピアスをもう一度突っ込んでみる』
ではないかと思いますが、これチョイスとしては、リスク高めです。

穴あけ用のファーストピアスは軸が太くて、その先端は、ドスンと穴を穿つためとんがっています。

これを、ふさがってしまったらしきピアス孔に突っ込もうとすると、軸が太いのでかなりぐいぐいと周囲を圧迫するし、とがった先端で皮膚を傷つけやすいのです。結果、感染を起こして腫れてきたり、痛くなったりという困ったことになりやすい。

うちのクリニックでピアス孔を開ける患者さんには必ず

「穴あけ用のピアスは使い切りで、外したら必ず捨ててください。アクセサリーピアスとして再利用はできません。」

とお話していますが、他の施設では必ずしもそういう話をしてくれるわけでもないらしいので、孔を開ける前に知っておいてほしいなあと思うことのひとつです。

もし、ダメもとで自分で頑張ってみようと思うなら、まずは次のような条件をクリアするアクセサリーピアスを用意しましょう。

  1. 素材が確か
  2. それなりに高い
  3. 軸がまっすぐでやや太め

1.でおススメなのは、肌に触れるパーツがすべてチタン製のピアスです。金属アレルギーを起こしにくい素材を選ぶのが大事。

2.は、必ずしも高けりゃいいってもんでもありませんが、「安かろう悪かろう」は真実です。3個1000円のピアスには、金属製ならアレルギーを起こしやすい合金が多いし、プラスチックだと処理が悪くて表面がザラザラしていたりするものが少なくありません。

3.カーブのある軸は、孔を通すときに壁を傷つけやすいので避けましょう。軸は太めのほうが、孔を広く保ってくれるので後々重宝です。

うちのクリニックで取り扱っているアクセサリーピアスは、これらをすべてクリアするものばかりなので、ご近所さんなら診療時間内に買いに来てもらっても大丈夫です。

 

頑張ってはみたものの、なとき

ダメもとで頑張ってみたけど、その後から腫れてきた、痛くなってきた、という場合。こういう時は、諦めて受診したほうがよろしいかと存じます。傷ついたところから、細菌感染を起こした可能性があります。

このような時は、おそらくどの施設でも、炎症の状態によって内服や外用の抗生剤を処方してくれるでしょう。しかし、ピアス孔への対応については「入れないでいたら、治りますよ」で終了かもしれません。

なぜなら、ピアス孔の作成はおしゃれのためにやったことであり、医者にしてみれば生活に必要なものとは見なし難いからです。医者の目的は傷と炎症を鎮静化させることであって、ピアス穴を残すことではありません。このような医者のスタンスは、ある意味正しいと私も思います。

で、同じ医者として、私はどうしているのかと申しますと、ピアス孔の作成を自費診療の一つとして取り扱っている以上、トラブったときもできるだけ穴を残せるような処置をするようにしています。

例えば、ナイロン糸を通してみたり、写真のようなシリコン製のピアスを留置してみたり。

こうすることで、孔は残しながら、炎症を鎮められるケースがほとんどです。

もちろん、残念ながら中には『色々がんばっても安定させることのできないピアス孔』もあります。医学的に見てそれ以上ピアスを続けることが、ご本人の健康を害すると判断すれば、ピアス生活を断念するよう最終宣告を行う場合もあります。そういう患者さんはむしろ少数な印象。

ピアスって、やろうと思えば自分でピアッサーを買ってきて、気軽にバスンと穴を開けられちゃうし、それで多くの人は何の問題もなくピアス生活を楽しめちゃうものですが、やっていることは「わざわざ自分で傷をつけて、本来必要のない皮膚のトンネルを作る」という、なかなかに大胆な行為です。トラブルが生じても何の不思議もありません。

何かあったときには、ひどくこじらせる前に医者に相談してくださいね。医者には怒られるかもしれないけど(苦笑)やっぱり突き詰めたところ、体が大事ですから。

以上、町医者からのお願いでした。