当院には、私のブログ記事をご覧になって受診するかたがしばしばいらっしゃいます。

特にこちらの記事は、amebloだけだった時代から繰り返し読まれているようで↓

「先生のスライサーのブログを読んで、自分でやってみたんですけど念のため見てもらおうと思って…」

と言ってくださる患者さんが少なくありません。そしてそういう方は皆様たいてい

スライサーでスライスしてしまった指先を、ブログの通りハイドロコロイドで保護して受診して下さる

の、ですが

実際に患者さんの指を拝見すると『あ、このパターンか』というケースも多いことに気が付きました。

ハイドロコロイドがイマイチな傷

それは、ひと思いにスパッとスライスしてしまった傷ではなく、途中まで切れた皮膚がぴろーーーーーんとくっついて残っている傷。

こちらが「ぴろーーーん系」


このぴろーーーん部分を戻して、ハイドロコロイドでピタッと覆うとどうなるか。

ハイドロコロイドは浸出液の出ているキズにはくっつきませんが、角質層が残っており、浸出液の出ていない部分にはくっつきます。

ぴろーーーん部分には角質層が残っていますから、ここにハイドロコロイドがしっかりと密着します。その様な状況でハイドロコロイドをはがそうとすると、くっついたぴろーーーん部分がハイドロコロイドとともに引っ張られ

  • せかっく止まっていた血が再度出血しだしたり
  • 最悪ぴろーーーん部分が持っていかれてしまう

と言う悲劇が起こることがあります。

私が上のリンク記事で想定していた「スライサーによる傷」は「スライサーでスパッとそぎ落としちゃった傷」。

こちらが「スパッと系」

つまり、「戻る皮膚が無い傷」だったので、ハイドロコロイドがくっついて困る、という状態は頭にありませんでした。

皮膚が残っているとき、クリニックでは

では、ぴろーーーんなキズの時にはどうすればいいのでしょうか。このようなキズの患者さんがクリニックを受診した場合、浮いている皮膚部分の大きさにもよりますが、基本はこちら。

  1. 浮いた皮膚をもとの位置に戻して、テープで固定する。
  2. プラスモイストなどの、キズに直接くっつかない素材で覆う。
  3. 伸縮性のあるテープで程よく圧迫がかかるように固定する。

こうすることで、ぴろーーーんの下に血液などが溜まり、戻した皮膚が浮いてしまうというような困った事態を予防するのです。

翌日受診して頂いた際には、細心の注意を払ってプラスモイストを除去し、出血が止まっていることを確認します。ぴろーーーんを固定したテープは、安定していたらそのまま置いておく場合がほとんどです。
あとは、新しいプラスモイストで覆っておしまい。この際は初診時ほど強い圧迫はかけません。

その後は、ご自宅で1日1回、プラスモイストを外して傷の周りは水洗いしてもらい、新しいプラスモイストに交換するのを患者さん自身に行ってもらいます。傷の部分はぴろーーーんを固定したテープで守られているので、強くぶつけたりこすったりさえしなければ、痛みはほとんどありません。

プラスモイストはハイドロコロイドと違い、水に濡れてしまったら交換が必要です。処置のとき以外で濡れそうなとき、たとえば水仕事や手洗いの際は、使い捨ての手袋やゴムの指サックなどで、みなさん対処していらっしゃるようです。もちろん、間違えて濡れてしまっても、ご自身で簡単に交換可能です。

ただ、普段おおよそ怪我の処置などすることのない一般のかたが、上手くできているか不安になるのも無理はありません。心配な時にはおうちでの処置後に受診していただいてもいいですよ、とお話しています。多くの場合、一度こちらが確認して「大丈夫!できてます!!」と太鼓判を押すと、その後は自信を持って処置できるようです。

ぴろーーーん部分を固定したテープは、おおよそ1週間で除去します。この処置は基本的にクリニックにご来院いただき、医師が実施しています。1週間経過すれば、治るべきものは治ってているし、もともと血流が悪くて治りきっていないところはすこしジクジク感が残っている場合が多いので、そのあたりの判断を医師が行います。そこから傷の状態に合わせてハイドロコロイド保護に切り替えたり、プラスモイストでの保護を継続したりすることになります。

じゃあ、自宅だったらどうすれば?

さて、こういう場合、一般の方が自宅で処置するならどうするのがベストかな?と考えたのですが、正直なところ、浮いた皮膚の固定に使うテープは、医療用のものでも使い勝手が良いものとそうでもないものがあるくらいで、市販品となるともうおススメのしようがありません。

むしろ、キズパワーパッド的なもので覆ってしまった場合、痛みや腫れが無いのなら、そのまま1週間置いておき、傷がくっつくのを待ったほうが良いかもしれません。ただし、何らかの基礎疾患を持っていて、感染のリスクが高いい人の場合は、やはり受傷後速やかに(遅くとも翌日くらいまでには)医療機関で診察を受けたほうが安心です。

一口に「スライサーで指にケガ」と言ってもバリエーションは色々です。応急処置はした、さてこの先どうしよう、と迷う時には、何が何でも自分でやらねばと頑張り過ぎず、来院をご一考いただくのが得策です。

少なくとも慌てて時間外救急に駆け込まずに済ませただけでも、十分頑張っているはずですから。

やれることをやったら、後はプロに頼ってくださいね。